こんにちは、チェロ奏者のヌビアです。
今回はクラシック奏者にとって1番触れたくないであろう内容を書いていきます。
それは「だいたいの経歴」はお金で買える、ということです。
10回以上コンクールを受け、現在はその運営側の事情も知る僕が
コンクールなどで得られる「経歴」の意味とコンクールへの向き合い方、正しいコンクールの選び方を解説します。
「経歴」を得ることに意味はある
では、経歴について、僕の結論を最初にすべて言いましょう。
「経歴」を得ることには意味があります。
将来に役立つ「経歴」をお金で買うこともできます。
ですが、実力が伴わないと仕事は来ません。
なのでまずは練習しましょう。
クラシックでいう「経歴」とは、主に以下の3つを指します。
・コンクールなどの受賞歴
・ステージでの演奏歴
・出身音楽大学
特に「受賞歴」については経歴の中で最も重要であり
自分のプロフィールとしてついて回る部分です。具体例は僕のプロフィールを参考にしてみて下さい。
こんにちは、ヌビア(須田史寛)です。 フリーランスの演奏家・音楽家として生きております。 チェロ奏者/作詞作曲/企画制作/英語指導/執筆 などNPO法人dattochi home理事 […]
僕は、奏者を経歴の文章で判断するほど愚かなことはないと思っています。
実にくだらないと思いますが、そのうえで、それでも経歴は大事な要素となってしまいます。
たとえば企業への就職活動の際に、大学名でふるいにかけられてしまうのと同じ原理です。
「○○コンクール第3位」と書いてある人と「受賞歴なし」では、やはり印象が変わります。
クラシック音楽界では、受賞歴を最初に見て演奏家をふるいにかける、悪しき風習があります。
どんなにその人が上手な演奏家であっても、それを示すもの・証拠が必要なのです。
逆に言えば、その「経歴」さえ手に入れてしまえば、それっぽい奏者を名乗ることもできてしまいます。
いい大学を出ているのに、全然頭がよくない人がいるのと同じことで
演奏家の中にも、経歴だけはいっちょ前で、全然上手ではない方が大勢いらっしゃいます。
僕はそれを知っているので、例え藝大・桐朋だろうと、コンクール優勝だろうと「演奏を聴くまでわからない」と言いますが
それを知らない人からは、経歴だけで判断されてしまうこともあります。
あなたの演奏が下手なのをごまかすために「経歴」があるのではなく
もしあなたが良い演奏をするときに、それを多くの人に見てもらえるよう「経歴」が必要なのです。
チェロコンクールの実態
ここで1つ、面白い話をしましょう。
これは僕が中学生の時、とあるチェロコンクールを受けた時の話です。
僕は第1次予選、第2次予選、本選と進み、
全国大会の審査が行われようとしていました。
楽屋に控え、チェロを構えていた僕はとてつもない緊張感の中にいました。
当時から舞台慣れはしていた僕でしたが、やはり「審査される」という状況には慣れていなかったのです。
そして前の人の演奏が終わり、スタッフにいよいよ自分の名前が呼ばれます。
「大丈夫だよ」と父親に背中を押され、僕は震えながらその舞台へと歩みを進めました。
目の前には女性1人、男性2人の3人の審査員がいました。
演奏したのは無伴奏の曲だったと思います。
呼吸を落ち着かせながら、精一杯弾き始め……
演奏の最中ふと審査員の方に目をやると、どうでしょう。
あまりの光景に目を疑いました。
……は?え?今、本番だよな?
そしてさらに驚くべきことが起こります。
その審査員が、ウトウトしたはずみに、手もとにあったお茶のペットボトルを落としたのです。
もう1度言います、これはコンクールの全国大会の本番中です。
ドンッ……と、鈍く大きな音が会場に響きました。
後々知りますが、コンクールの審査員というのは「良い金になる」お仕事なのです。
もしかしたら、「さっさと審査を終わらせて帰りたいなあ」と思われていたのでしょうか。
先ほどまで緊張感に包まれていた僕でしたが、その震えはどこへやら。
代わりにいら立ちがこみ上げてきました。
そこから先はよく覚えていません。そのコンクールは5位入賞くらいでした。
そしてその時、子ども心ながらに
「コンクールの座なんて、ある程度実力があればお金で買えてしまうんだなあ」と感じたのです。
コンクールへの正しい挑み方
このように紹介した事例もありますが、もちろん由緒正しいコンクールもたくさんあります。
そして、それよりレベルが低く、頑張って練習すれば受かるコンクールもあるでしょう。
ですが最初は自分のレベルも分からないと思います。
まずは1度、由緒正しいコンクールを目標として1度挑んでみて、自分の実力を知りましょう。
誰かに審査されるという1回の経験は、100回のリハーサルよりも上達させてくれます。
最初は緊張でうまく弾けないでしょう。悔しい思いもすることでしょう。
暗譜したのに音が飛んでしまったり、力んで弓が持てなくなったり。でもその経験が大切なのです。
コンクールでは、審査後に審査員からの講評がもらえたりします。
そこで客観的に自分の演奏はどう評価されているのかを知り、次につなげることが大切です。
もし届かなければ難易度を下げて、そこでの入賞を目指しましょう。
難易度を下げれば下げるほど、先ほど言ったような「金で買える」コンクールになってきますがそれでもいいんです。
お金はかかりますが本番の経験も出来て、大幅に上達し、そのうえ受賞歴も手に入る、くらいの感覚です。
そして最終的に、目標となるコンクールを目指せればいいのですから。
まずは目標とすべき3つのコンクール
全日本学生音楽コンクール
まずは日本国内での受験であればまず目指すべき、代表的なコンクールをご紹介しましょう。
これらに合格できれば、その時点では相当な実力を持っていると考えても良いのではないでしょうか。
1つ目は全日本学生音楽コンクール、通称「学生音コン」です。
高校の部・大学の部に分かれています。
2020年の情報(星の数がオススメ度)
参加料|27500円 | 4 |
課題曲|D.Popper : High School of Cello Playing 40 Studies Op.73 または A.Piatti:12 Caprices Op.25(高校生の部) | 4.5 |
大会概要|日本トップクラスの難易度であり、藝大・桐朋といった音大レベルを目指すなら挑んでおきたい | 4.5 |
総合 | 4.2 |
課題曲・自由曲で要求されるレベルはかなり高いです。
大会は全国各地の会場で開催され、
2020年時点ではチェロは東京・大阪で開催されていました。
僕は受けようとしていたタイミングで、本格的に(一般の)大学受験勉強をすることに決めたため
受験することができませんでしたが、一流を目指したい人はまずここを目指すべきです。
大阪国際音楽コンクール
僕の受けた横浜国際音楽コンクールもこの3つの中に並ぶものだったのですが、2016年を以て大会が廃止に。
代わりにご紹介したいのがこちら、大阪国際音楽コンクールです。
2020年の情報
参加料|年代ごとに変動。予選・地区本選・ファイナルとそれぞれ参加料が発生。 (ファイナルまで出場の場合、43100~57300円) | 3 |
課題曲|課題曲は「専門学校~短大・大学(院)~一般」地区予選のみ、本選は自由曲) | 3.5 |
大会概要|難易度は上位であり、後援団体の数など、開催規模感は日本トップクラス。 | 4 |
総合 | 3.5 |
課題曲や、ファイナルで求められるレベルなどは少し下がるものの、
それでも決して低いわけではなく、十分にチャレンジしがいのあるコンクールと言えるでしょう。
泉の森ジュニアチェロコンクール
最後に、泉の森ジュニアチェロコンクール。通称「泉の森」です。
こちらは小学生の部・中学生の部・高校生以上の部(~20歳)に分かれています。
2020年の情報
参加料|17000円 | 4.5 |
課題曲|J.S.Bach:6 Suiten (No.1~No.6まで)より各自選択したPrelude1曲 (※ただし、「中学生の部」ですでに学生音コンと同じ「Popper 40 Studies」がありレベルが高い、どのPreludeを選ぶかも重要) | 4 |
大会概要|「学生音コン」と並び称され、国内開催のチェロコンクールでは最上位の格式。 | 4.5 |
総合 | 4.3 |
大阪で開催されるコンクールですが、関東圏からも多くの奏者が参加します。
コンクールの知名度自体も高く、「泉の森で入賞」というだけでネームバリューは跳ね上がります。
課題曲の難易度は「学生音コン」と同じくらいです。
それ以外のコンクールについて
それ以外のコンクールについては、日々新たなコンクールが生まれており
実際に受けてみないと分からないことも多いですが、そのレベルをおおよそ判断する方法はこちら。
→レベルの判断に最も役立つ課題曲の難易度を見てみる
→コンクールのレベルは課題曲に比例することがほとんど
パンフレット・募集要項がしっかり作られているか
→特に受賞者のプロフィール写真のクオリティを見る(※)
審査員はどのような人物か
→たまに楽器奏者ですらない方が審査していることがあるため、それは避けた方が良い
※これはあくまで個人的な経験則ですが、パンフレットやウェブページでの受賞者プロフィール写真の解像度が
極端に低かったりするコンクールは、だいたいレベルが低いことが多いです。
まずは運営団体がしっかりしているかどうか、Webサイトは綺麗か、
運営会社や後援団体がしっかり明記されているか……大会として丁寧な運営かどうかは1つの分かれ目になってくるでしょう。
さいごに
根も葉もないことを言いますが、コンクールは大きなお金が動く『ビジネス』です。
現在僕は、コンクールを運営する団体の内部にいるため分かるのですが、
様々な団体・人物が関わり、大きくお金が動く代わりに、とても大変な運営を強いられます。
そのため、ただ「金儲けのために」開催される大会も少なくなく、
そういう大会は「経歴もらえるんだからいいでしょ」という態度であり、将来を担う演奏家に対して不誠実です。
一方で、きちんとお金を回し、将来有望な音楽家のために可能性を作ろうと頑張っているコンクールも存在します。
「経歴」をどう活かすかはあなた次第です。
ぜひコンクールを、ただの形ばかりの経歴を買うために使うのではなく、
自身の技術向上や、今後への価値ある投資として役立ててほしいなと願っています。
これら各種コンクールへの対策用レッスンなどのご相談もこちらから可能ですので
よろしければ覗いてみてくださいね。